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zoom RSS 100題外伝。  雨。

<<   作成日時 : 2006/11/24 17:19   >>

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雨が降っていた。
さらさらと優しい音で。
霧のように細かな粒が降り注ぐ。
この髪に、腕に、爪先に。
優しい音で冷たい雫が降り注ぐ。
その日は、雨が降っていた。

「よくまあここまで育て上げたものね」
小ぶりな眼鏡を押し上げて白衣の女性が感心したように巨大な培養器を見上げた。
培養器に満たされた黄味がかった液体の中には長い銀髪の少女。
「ところで、サンプルの細胞から培養出来たのはこの子だけ?」
「弟の分もサンプルとして育てておる。どちらも良い素材だったな」
培養器の硝子を撫で上げるとその中に膝を抱えて漂っていた少女がうっすらと瞼を上げた。
覗く瞳は鉛色。
「目の色はいじったの?」
「ああ。もう一人、こいつと同じ細胞から育てたがそちらは赤にしておいた。便宜上サクラと名付けたが名前など忘れしまっておるだろう」
思い出したように笑って培養器の硝子を軽く叩く。
鉛色の瞳は伏せられることもなくただそれを眺めていた。
「案の定教会側も気付きもせずに子飼いにしたぞ」
「あらあら。それはまたお気の毒に。この子…ナギサは?どうするの?」
「これは我らの手元に留めおく。良い具合にサンプルの従妹とやらの細胞も入手できた」
にたりと笑った老爺が示した机の先には艶やかな銀髪が一房乗せられていた。
「無理やり切ったんじゃないでしょうね」
「まさか。死体からいただいてきただけだ。これを元にサクラの妹を用意しよう」
「死体って…」
「知らん。ただ、我らの塔を覗き見しておったのは確かだがな」
暗に己の所業を見られた故に始末したと匂わせて老人はにたりと暗い笑みを浮かべた。
「ではその子も教会へ?」
「うむ。そうさな、次は直接教会に送り込むか」
「あと、残っているのはどこかしら」
「ふむ…ミヅキがコモド、キヌが騎士団、コトリがフェイヨンか」
「コトリはもう使えないわ。あの子は道筋が異なってしまったもの」
「ならば壊すしかあるまい」
老人が至極あっさりと告げると眼鏡の女性は鷹揚に頷いた。
「運良く一人は明日にでも送り込めるようになったからな」
「あちらの部屋の男の子?」
「ああ。マガツが一番使用サンプルに似ておる。直接ハンターギルドに送り込んでもいいんだが」
「サンプル本人に気付かれちゃまずいでしょ」
「アインブロックに送り込む手はずは整えてある。あそこなら問題あるまい」
「そうね。そうしましょう。コトリの代わりを用意しなきゃ。サクラの『妹』は大聖堂、コトリの『代わり』はどこが良いのかしら?」
「ゲフェンだな」
わかった、と頷いて女性が部屋から出て行くと老人は培養器の中の少女に視線を投げかけた。
うっとりと、それでいて刺すような、粘りのある視線。
鉛色の瞳の少女は膝を抱えたままその視線を受け止めて、再び目を閉じた。

雨が降っていた。
さらさらと微かな優しい音で。

「どうかした?」
「……わからない。ただ、私が私でなくなるような、そんな気がしただけだ」
「君は君だよ。他の誰でもない」
「私が私でなくなったら、その時は殺せばいい」
「殺さないよ。僕は死なないし、君も助けるから」

優しい響きの声は雨音にも似て。

「私が敬愛する太陽と月と星にはもう会えないのだな?」
「ええ、貴女があんなことをしなければまだ生きていられたのに」
「仕方がない。それを求めたのは『私』だ」
「愚かな子。楽には死ねないわよ、コトリ」
「…抵抗はさせてもらう。あまり甘く見ない方が良い」

穏やかな表情は優しい光を放つ。

「マガツ、お前はアインブロックに行け」
「アインブロック…」
「そうだ。そこで学べ。銃というものについて。そして頭に叩き込め」
「は、い」
「お前はよく出来た子だ、マガツ。素材よりもなお良い」

無垢な心に染み入るような、悪意。

「私の踊り、見ていてもらえました?」
「ええ。上出来よ」
「本当に?!良かったぁ、先生にほめられるのが一番嬉しい」
「もっと、もっと上達しなさい。貴女の踊りに誰もが魅せられるように」
「はい!」

純粋な喜びを利用する密やかな気配。

「どうしたの?最近元気がないみたいだけど」
「ごめん、ちょっと調子悪いみたいで」
「がんばりすぎちゃだめだよ?せっかく騎士になれたんだから」
「そうだね。気をつける」
「じゃあペコちゃんのお世話をしましょー」

何かを感じ取ってもうまく言葉に出来ない苛立ち。

「ナギサ」
「お前だけは私の手元に置いておこう」
「ナギサ」
「お前だけが愛しい我が子だ」
「ナギサ」

雨のように嫌な言葉が降り注ぐ。

雨が降っていた。
耳触りの良い音で、さらさらと。
身体の中にまで染みとおるような悪意を込めて。

雨が降っていた。

その日は、雨が降っていた。




「あら、雨」
足元を回る人工生命体が雨を避けてカートの下に逃げ込む。
それを捕まえて培養器に戻してやると、銀髪の女性がそっと空に手を向けた。
「もっと、もっと降って頂戴」
目に雨粒が降り込もうと閉じられない鉛色の瞳。
「私を…『ナギサ』を洗い流して頂戴」
泣けない鉛色は雨雲に覆われた空の色に似ている。
「あの子との約束を守れないなら」
翳した手に雨粒がぽつりと落ちた。
「私が私でいる必要なんてないでしょう?」
さらさらと雨音が響く。
霧のように細かな粒が降り注ぐ。
その髪に、腕に、爪先に。
優しい音で凍えるような冷たさを運んで。
雨が降っていた。
『私』が生まれたあの日と同じに。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
ほょ〜ん・・・(´;ω;`)
どんなお話しなんだろう・・・
次回楽しみにしてます><
しゃー
2006/11/25 12:04

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